第67回全国能率大会 優秀論文発表会 「経済産業大臣賞」受賞者インタビュー

【インタビュー】論文を書く意義とは/経済産業大臣賞を受賞して

 全日本能率連盟では「経営の科学化」推進に向け、“産業復興”、“経営革新”、“人材開発”に関する論文を広く募集し、優れた論文にはマネジメント界で唯一の「経済産業大臣賞」を授与しています。

今回は、全国能率大会募集論文の第67回(平成27年)全国能率大会 経済産業大臣賞を授与された村上剛氏(株式会社日本能率コンサルティング)に、受賞のお気持ち、また今後の抱負などを交えてお話を伺いました。


どうやって人事が経営に貢献していくのか

――全能連募集論文の最優秀賞である経済産業大臣賞の受賞、おめでとうございます。今のお気持ちはいかがでしょうか。

村上氏(以下、村上):ありがとうございます。とても光栄です。最近、自分がコンサルティングを行う中で、人事や人材開発、組織開発分野は特に経営とのつながりが求められていると感じます。その中で、ではどうやって人事が経営に貢献していくのかということ…それは普段自分が行っていることなのですが、自分の考え・活動をそのまま書きました。それが外部から評価されたということなので、素直に嬉しいですね。

――受賞すると思っていましたか?

村上: いえ、全然思っていませんでした。弊社からは複数応募して、他賞も受賞しましたので、会社としては喜ばしいことだと思います。

―― 今までの業務内容をそのまま論文に書いたとのことですが、受賞のポイントはどこだと思いますか?

村上:具体的に書くことを意識しましたので、そこが評価されたのかもしれません。

―― 村上さんの論文タイトルは「経営・事業戦略を実現する人材を増やす人材資産マネジメント」。このテーマはどうやって選ばれたのですか?

村上:全能連さんの論文募集要項に「経営革新に関する内容で、実践的論文(実践につながる実証論文、理論研究論文、提案も含む実践的な論文など)」とありますが、それを考えた時に、自分の抱えているさまざまな仕事の中ではこのテーマが一番ふさわしいと思いましたので。 先ほども申し上げた通り、日々行っている業務のことを論文に落とし込んだわけですが、文字にして論理立てて考えるというのは、自分自身が今までやってきたことを改めて振り返る非常にいい機会となりました。おかげさまで賞をいただけたことはありがたいです。

―― 普段も、プレゼンなどのために資料化したり記録したりはされているのでは?

村上:もちろんです。しかし、パワーポイント資料は図版が入りますし、プレゼンは話しながら説明していくことが多いものです。自分の活動や考えをまとめ、論理性を意識しつつ構成し、すべて文章にする機会というのは、あまりありません。自分の考えを字でまとめるのは、意義深いことだと思います。

タイムマネジメントができなければこの仕事は務まらない

―― 普段の業務も行いつつ、論文を書き上げられたわけですが、時間の使い方などで苦労した点はありますか?

村上:小説のように「すべて0から書き上げる」というわけでもありませんし、資料化は仕事のうちなのでそこまで苦労はありませんでした。時間のやりくりもそんなには……苦労した記憶はないですね。そもそも、タイムマネジメントができなければこの仕事は務まらないので(笑)。投入工数を算出し、最終的な締め切りまでに何をいつするかの計画を立てて……と、通常業務と同じ感覚で行っていきました。 書くにあたっては帰宅する前に図書館に寄ったりもしました。図書館で仕事をすることは嫌いではないので。

―― いわゆるノマドワーカーですね。働き方改革なども中央省庁で推し進められていますが、そのテーマもお持ちなんですか?

村上:論文には書いていませんが、会社ではテーマを掲げて取り組んでいます。もともと”能率コンサルティング”ですから。生産性をどう上げていくかというところで、「時間価値」はより強化していく分野です。例えば通勤時間をどう過ごすか。どうやって価値を生み出していくかということです。

―― 環境を変えて業務をしたり、この場合は論文を書いたりすることで、より生産性を生み出すことはあるでしょうか。

村 上:あると思います。環境が変わると気分も変わりますし。また、帰宅時間に電車の中で少し寝て頭をスッキリさせてから論文に向かうなどすれば、効率も上がります。限られた時間をどう生かすかを考えることが重要だと思います。

今後の人材マネジメント業界の展開

―― 今後の人材マネジメント業界は、どう展開していくとお考えですか?

村上:論文にも出した言葉、「タレントマネジメント」がキーワードの一つになってくると思います。「タレントマネジメント」という言葉は、そもそもは次世代の経営者や次世代リーダーを”トップタレント”と呼び、そういう人たちをいかに計画的に育てていくかというマネジメントプログラム……という概念がありました。それがどんどん広がっていくと同時に意味も広義になっていき、今では「いかに一人一人の才能を開かせるか」というニュアンスを持った言葉になりました。
「タレントマネジメント」という言葉自体は欧米で発生したものですが、今いる人をどう活かすかという発想は、労働人口が減り続けている日本において、最重要といってもいいくらいどの企業でも必要なものです。それを論文では “人材資産マネジメント”と呼んでいます。

―― 欧米でいう「タレントマネジメント」と日本でいう「人材資産マネジメント」は若干意味合いが違うものでしょうか?

村上:違いますね。ただ、クライアントには「タレントマネジメントみたいなものです」と言うと通じやすいので、そう言ってしまいますけども(笑)。考えている発想は違うんです。

―― 「一人一人の才能を開かせる」と言っても、人材育成のステップも道筋も会社によって違いますよね。

村上:会社によっても、人によっても違います。その人の状況がそれぞれ違うわけですから。一人一人と向き合っていくことは、まさにマネジメント業務そのものなんです。いかに人を活かしていくかを考えながら業務に向き合っていきたいと思っていますし、その考えを日本に浸透させていきたいと思っています。私の論文が、そういう意味で日本全体の活力を上げる一助になれば幸いです。

毎日の生活で、課題と検証を繰り返す

―― 毎日さまざまな業務を行っていらっしゃると思いますが、論文を書く時のような「業務の振り返り」は、日常的に行っているのですか?

村上:そうですね。帰る時などに「今日の気づき、教訓は何か」と考えますね。

―― 毎日意識していると、何かしらの気づきはあるものでしょうか。

村上:あります。逆に、気づく力がなくなることが一番怖いですね。
例えば私はブログを書いてはいませんが、書いている人は、ただ食事に行くだけでも「この従業員さんの対応が素晴らしかった。自分がクライアントに対する時に参考にしよう」とブログのネタになるような発見をするでしょう。一方でブログを書いてない人は、同じ店に行っても「この店は対応が良くて気分がいい」と感じるだけだったりします。それは、アンテナの違いにほかなりません。今日一日で何かを見つけようとしながら生活すると、「この気づきをメモしておこう」と考えるようになる。 今回の論文の中にもそういう部分を書いているんです。

―― それはどういうことですか。

村上:経験の前には課題を立て、それを検証します。検証は、経験そのものです。例えば、私は論文の表彰式に出ましたが、その前に今日の表彰式でどういうことを学ぼうか、と事前に考えておきます。それで表彰式に臨むわけです。それが学べたか学べなかったかが検証です。 こういった「課題と検証」を繰り返すことによってナレッジが溜まり、これを組織で行えば組織のナレッジが溜まっていきます。それらを活用することによって組織の力が強くなります。

―― 自分を振り返ること、業務を振り返ることを毎日続けていれば、論文を書くのはそれをまとめるだけですし、自分や組織の成長にもつながりますね。

村上:そうですね。やはり人間は何かしらの課題を持ってこの世に生を受けるものだと思っているので。人間は一生学びを続けていく存在だと思っています。

―― では最後に、これから論文を書こうという人に向けて、何かメッセージをお願いします。

村上:繰り返しになりますが、やはり論文を書くことは自分自身を振り返る非常にいい機会になります。自分がどのような意識で仕事に向き合っているかを再認識するという意味でも、意図的にそういう時間を設けることが有効なのではないでしょうか。 それが評価されれば嬉しいですし、評価が目的でなくても書くこと自体に意味が大いにあると思います。

―― ありがとうございました。今後の村上さんのご活躍を期待しています。

村上:こちらこそ、ありがとうございました。

< 村上 剛氏  プロフィール>

大手事業会社で人事・総務・経理、経営企画、法人営業、業務改善コンサルタント職を経て、株式会社日本能率コンサルティングに入社。企業の人事制度や人材育成の仕組み構築、組織活性化等のコンサルティング業務に携わる。論文「経営・事業戦略を実現する人材を増やす人材資産マネジメント」にて、第67回(平成27年度)全国能率大会 経済産業大臣賞受賞。www.jmac.co.jp

※記事中の肩書は、論文提出当時のご所属で記載しております。

取材日: 2016年5月31日